이 공간의 모든 이야기는 양심없는 무단 수집을 거부합니다. ⓒMuriel.
2011/06/12 (Sun)
(⇒외조부&외조모의 나가사키 방언은 역자의 판단에 따라 표준어로 번역합니다.
다소의 오역이 있을 수 있습니다.)
그 때 일이 아직 잊혀지지 않아서 조금 더 이 곳에 있고 싶다고 생각했다.
식스 센스에 버금가는 반전...
186 リアル New! 2011/05/13(金) 12:15:37.35 ID:rKgs8JSd0
アイツを再び目にしてからさらに4日が経った。
当たり前かも知れないが首は随分良くなり、まだ痕が残るとは言え明らかに体力は回復していた。 熱も下がり身体はもう問題が無かった。
ただ、それは身体的な話でしかなくて、朝だろうが夜だろうが関係無く怯えていた。 何時どこでアイツが姿を現すかと思うと怖くて仕方無かった。
眠れない夜が続き、食事もほとんど受け付けられず、常に辺りの気配を気にしていた。
たった10日足らずで、俺の顔は随分変わったと思う。精神的に追い詰められていた俺には時間が無かった。
当然、まともな社会生活なんて送れる訳も無く、親から連絡を入れてもらい会社を辞めた。(これも後から聞いた話でしかないのだが…、連絡を入れた時は随分嫌味を言われたらしい)
とにかく、何もかもが怖くて洗濯物や家の窓から見える柿の木が揺れただけでも、もしかしたらアイツじゃないかと一人怯えていた。
S先生が来るまでには、まだ二週間あまりが残っていた俺には長すぎた。
見かねた両親は、強引に怯える俺を車に押し込み何処かへ向かった。 父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」と声をかけた。
車の後部座席で、母は俺の肩を抱き頭を撫でていた。母に頭を撫でられるなんて何年ぶりだったろう。
(当時の俺にはだが)時間の感覚も無く、車で移動しながら夜を迎えた。
二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、母に寄り添われ安心したのか、久方ぶりに深い眠りに落ちた。
187 リアル New! 2011/05/13(金) 12:18:29.14 ID:rKgs8JSd0
目が覚めるとすでに陽は登っていて、久しぶりに眠れてすっきりした。実際には丸1日半眠っていたらしい。
多分、あんなに長く眠るなんてもうないだろうな。外を見ると車は見慣れない景色の中を進んでいた。
少しずつ、見覚えのある景色が目に入り始めた。道路の中央に電車が走っている。車は…長崎に着いていた。これには俺も流石に驚いた。
怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け車での移動にしてくれたらしい。
途中で休憩は何度も入れたらしいが、それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、俺が怖がらないようにずっと寄り添ってくれた母への恩は、一生かけても返しきれそうもない。
祖父母の住む所は長崎の柳川という。柳川に着くと坂道の下に車を停め両親が祖父母を呼びに行った。
(祖父母の家は坂道から脇に入った石段を登った先にある)
その間、俺は車の中に一人きりの状態になった。
両親が二人で出ていったのは足腰の悪い祖母やS先生の家に持っていく荷物を運ぶのを手伝うためだったのだが、自分で「大丈夫、行って来て」なんて言ったのは本当に舐めてた証拠だと思う。
久しぶりに眠れた事や、今いる場所が東京・埼玉と随分離れた長崎だった事が気を弛めたのかもしれない。
車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると急に首に痛みが走った。
今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。
188 リアル New! 2011/05/13(金) 12:20:28.62 ID:rKgs8JSd0
首に手をやると滑りがあった。…血が出てた。指先に付いた血が、否応なしに俺を現実に引き戻した。この時、怖いとか、アイツが近くにいるかもって考える前に「またかよ…」ってなげやりな気持ちが先に来たな。もう何か嫌になって泣けてきた。
分かってもらえれば嬉しいけど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのってもうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。
気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。
この時は少し気が弛んでいたから尚更で、「どーしろっつーんだよ!!」とか「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。
車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。
何しろ問題の俺が首から血を流しながら後部座席で項垂れて泣いてるからね。
何も無い訳がないよな。
「どうした?」とか「何とか言え!」とか「もぅやだー」とか「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか「どげんしたと!?」とか「あなたどうしよう」とか。
この時は…思わず「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。
こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に…黙ってろよ!とか思ってたな。
勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ…こんな俺みたいな駄目な奴のために走り回ってくれてる人達なのに…。今考えると本当に恥ずかしい。
で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。
物凄い痛かったね。親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。
(父のポリシーで子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね)
で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って静かだけど厳しい口調で言ったんだ。
それで、何故か落ち着いた。ってかびっくりし過ぎてそれまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。
190 リアル New! 2011/05/13(金) 12:23:05.92 ID:rKgs8JSd0
冷静さを取り戻して、皆に謝ったら急に腹が据わってきた気がした。
走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。
自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。
S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。 何か起きたっていうよりは俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。
門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。 きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。
奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。
S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて…ゆっくりと振り向いたんだ。
(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)
祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」
何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。 それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。
191 リアル New! 2011/05/13(金) 12:26:19.79 ID:rKgs8JSd0
S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」
S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」
しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。 泣きっぱなしだな俺。
S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。 俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。
目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
あんな人本当にいるんだな。
S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」
何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。
193 リアル New! 2011/05/13(金) 12:28:37.08 ID:rKgs8JSd0
俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体何なんですか?
何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。
S先生、何とかならないんですか?」
S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」
「ドォ~ドォルルシッテ」
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」
…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)
「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」
左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。 ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。
左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。
195 リアル New! 2011/05/13(金) 12:31:03.08 ID:rKgs8JSd0
アイツが立ってた。 体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。 梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。
「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」
鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。
俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。
俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。
見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで
「パンッ!!」
って。 例えとか誇張でもなく“跳び上がった。 心臓が破裂するかと思った。
204 リアル New! 2011/05/13(金) 13:00:19.41 ID:rKgs8JSd0
「パン!!」
その音で俺は跳び上がった。正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。
血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。
「まだいけません!」
いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか俺に言ったのか分からなかった。分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話始めた。
S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい」
「Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」
障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。
(質問出来る余裕は無かったけど)
206 リアル New! 2011/05/13(金) 13:08:17.87 ID:rKgs8JSd0
S先生「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」
俺「見えました…どーして?って繰り返してました。」
この時にはもうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。
S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。
俺「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」
S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」
俺「怖い…です」
S先生「何が怖いの?」
俺「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」
ここらへんで俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何が言いたいのかさっぱりだった。
S先生「でも何もされてないわよねぇ?」
俺「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」
S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
俺「…」
S先生「難しいわねぇ」
俺「あの、よく分からなくて…すいません」
S先生「いいのよ」
S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね」
「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっと“いいな~。優しそうだな~って思ったのね。だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら」
「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって体が反応しちゃうのね」
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。
207 リアル New! 2011/05/13(金) 13:12:17.31 ID:rKgs8JSd0
俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。
S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」
この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。
S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。
「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」
S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた)
208 リアル New! 2011/05/13(金) 13:13:45.30 ID:rKgs8JSd0
翌日、朝早く起きたつもりがS先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」
関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。
本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。 ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。
210 リアル New! 2011/05/13(金) 13:21:22.89 ID:rKgs8JSd0
その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって
身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、
あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。
(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)
本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。
S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」
俺「えぇ、S先生のおかげですね」
S先生「あれから見えたりした?」
俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
S先生「そんな事ないわよ?」
顔がひきつった。
S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」
「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」
多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」
俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。
211 リアル New! 2011/05/13(金) 13:25:33.18 ID:rKgs8JSd0
実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来てやっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。
「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら優しい顔で
「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。
「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」
照れながら答えたら
S先生「そうじゃなくて帰っちゃ駄目みたいなのよ」
俺「え?」
S先生「だってまだ残ってるから」
また顔がひきつった。
結局、本山を降りる事が出来たのはそれから二ヶ月後だった。実に五ヶ月も居座ってしまった。多分、こんなに長く家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。
S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか本当のところは分からないからだそうだ。
長かった本山の生活も終ってやっと日常に戻って来た。 借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、
実家には俺の荷物が運び込まれてた。
アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしくその日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが俺が見なくて良かった
212 リアル New! 2011/05/13(金) 13:27:22.34 ID:rKgs8JSd0
実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると(そーいやそれまでは気にならなかったな。)物凄い件数の着信とメールがあった。 中でも一番多かったのが○○。
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とかこうすればいいとかこんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。
母から、○○が家まで来た事も聞いた。 戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
…コンパしてやがった。
とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。 所詮世の中他人は他人だ。
翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。電話じゃなかったのは気まずかったからだろう。
夜になると、家まで○○が来た。わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが一番の理由である事は言うまでもない)
玄関を開け○○を見るなり二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
言葉で許されるよりも殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。
○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。
213 リアル New! 2011/05/13(金) 13:30:55.97 ID:rKgs8JSd0
○○からは、あの晩のそれからを聞いた。
あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
「反抗したりもたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」
○○の言葉が状況を物語っていた。
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、“俺は違う“とか“そんな事しません“とか言い出して怖いんだもんよ」
アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて頭の中の映像を消すのに苦労した。
俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。
俺が○○でも勘弁だしね。
その後、林がどうなったかは誰も知らない。さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。
○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
でもこんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
だから「何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。
214 リアル New! 2011/05/13(金) 13:34:11.55 ID:rKgs8JSd0
その後、俺はS先生の言い付けを守って毎月一度、S先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。 ○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、
S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。
アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。
本当に終ったのか…俺には分からない。S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。ただ、今は終ったと思いたい。
S先生のお葬式から二ヶ月が経った。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め俺は日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間にふとあの頃を思い出す時がある。あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、
本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。
祖母から一通の手紙が来たのはそんなごくごく当たり前の日常の中だった。
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
祖母の手紙には俺への言葉と共にこう書いてあった。
“S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします“
S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。
216 リアル New! 2011/05/13(金) 13:37:20.60 ID:rKgs8JSd0
Tちゃんへ
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。 でも…、ごめんなさいね。
あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。
本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。
Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる?
このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。
でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。
218 リアル New! 2011/05/13(金) 14:02:03.21 ID:rKgs8JSd0
S先生の手紙の続き
最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。
Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?
本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。
苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
いい?Tちゃん。
決して安心しきっては駄目よ。いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、
余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね?
嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。
S
219 リアル New! 2011/05/13(金) 14:04:20.50 ID:rKgs8JSd0
読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。一体、どうすればいい?
まだ…、終っていないのか?
急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたら、もうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。
S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?
林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?
S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。
結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。
220 リアル New! 2011/05/13(金) 14:06:27.13 ID:rKgs8JSd0
ここまでしか…俺が知っている事はない。
二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。
結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。
でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。
俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」
222 リアル(最後) New! 2011/05/13(金) 14:10:29.09 ID:rKgs8JSd0
そして…、最後の最後で申し訳ないが俺には謝らなければいけない事があるんだ。
この話の中には小さな嘘が幾つもある。これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。
ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
でもこの話を誰かに知って欲しかった。
俺は○○だよ。
‥今更悔やんでも悔やみきれない。
그 녀석을 다시 보고 나서 나흘이 흘렀다.
당연한 걸 지도 모르겠지만 목은 꽤 좋아졌고
아직 흉터가 남아있긴 하지만 체력은 어느 정도 회복되었다.
열도 내렸고 몸에는 아무런 문제가 없었다.
다만 그건 신체적인 것에 대한 이야기일 뿐이었고
밤낮없이 나는 두려움에 떨었다.
언제 어디서 그 녀석이 모습을 드러낼 지 모른다고 생각하면
두려워서 참을 수가 없었다.
며칠 동안 잠도 제대로 자지 못하고
식사도 제대로 하지 못한 채 늘 주변 기척에 신경을 곤두세웠다.
채 열흘도 지나지 않아 내 얼굴은 꽤 많이 변한 것 같았다.
정신적으로 궁지에 몰린 나에겐 시간이 없었다.
당연히 제대로 회사 생활을 할 수도 없어서
부모님이 대신 회사에 연락을 넣어 회사를 그만 두었다.
나는 빨래더미나 창문 너머로 보이는 감나무가 흔들리는 것에도
어쩌면 그 녀석이 아닐까 혼자 두려움에 떨었다.
S선생님이 올 때까지의 2주간이 나에게는 너무도 길게 느껴졌다.
차마 나를 두고 볼 수 없었던 부모님은
떨고 있는 나를 억지로 차에 밀어 넣어 어딘가로 향했다.
아버지는 연신 "걱정 마라." "괜찮을 거다." 격려해 주었다.
나는 시간 감각도 잃고 차에서 이동하며 밤을 맞았다.
스무 살도 지나 창피한 일이지만
어머니에게 꼭 붙어서 오래간만에 깊이 잠들 수 있었다.
눈을 뜨자 이미 해가 떠 있었다.
오랜만에 푹 잘 수 있었다.
실제로는 하루 종일 잠들어 있었다고 한다.
차창 밖을 보자 낯선 풍경이 눈에 들어 왔다.
조금씩 낯익은 풍경이 눈에 보이기 시작했다.
도로 가운데에 전철이 지나고 있다.
차는 나가사키에 도착해 있었다.
놀랐다.
두려움에 떨고 있는 나 때문에 비행기나 신칸센을 피해
자동차를 이용해 이동해 준 것 같았다.
도중에 몇 번이고 휴식을 취하긴 했지만
제대로 잠도 자지 못하고 운전을 계속해 온 아버지와
내가 무서워하지 않도록 계속 함께 있어 준 어머니의 은혜는
평생이 걸려도 다 갚지 못할 것이다.
외할머니 댁은 나가사키의 야나가와다.
야나가와에 도착해 언덕 아래에 차를 세우고 부모님은 할아버지 할머니를 부르러 갔다.
그 동안 나는 차 안에 혼자 있었다.
나를 두고 부모님이 가신 것은 허리가 좋지 않은 할머니가 드실 짐을 옮기는 걸 돕기 위해서였는데
나 스스로 "괜찮아. 다녀 와." 같은 소리를 지껄인 것은 정말로 그 녀석을 우습게 본 증거일 것이다.
오랜만에 잠도 푹 잤고 도쿄, 사이타마와 꽤 멀리 떨어진 나가사키에 왔다는 것이
마음을 느슨하게 만들었던 건 지도 모른다.
차 뒷좌석에 무릎을 세우고 앉아 창 밖을 멍하니 바라보고 있으려니
갑자기 목에 통증이 느껴졌다.
지금까지의 통증과는 비교도 할 수 없을 만큼의 극심한 아픔이었다.
목에 손을 대어 보자 뭔가 미끌했다.
피가 나고 있었다.
손끝에 묻은 피가 나를 거침없이 현실로 내던졌다.
이 때는 아프다던가 그 녀석이 가까이 있을 지도 모른다는 생각보다 먼저
"또야..."하는 자포자기하는 심정이 앞섰다.
지긋지긋해서 눈물이 났다.
나쁜 일들이 쉴틈없이 일어나서 나는 의욕을 잃었다.
이 때는 마음을 조금 편하게 먹으려 하기 시작했을 때라
"대체 나보고 어쩌라는 거야!! 작작 좀 해!!"
혼잣말을 중얼거리며 울었다.
부모님이 할아버지, 할머니를 모시고 차로 돌아왔지만
곧 패닉 상태가 되었다.
내가 목에서 피를 흘리며 뒷좌석에 쓰러져 울고 있었으니까.
"왜 그래!!"
"무슨 말이라도 해 봐!"
"T, 정신 차려야 한다!"
"여보. 어쩌면 좋죠..."
이 때는 나도 모르게 "당신들 시끄럽단 말이야!!!"하고 소리를 질렀다.
이런 상황에서 대체 무슨 설명을 하라는 거야.
당신들은 아무 것도 못하는 주제에.. 닥치기나 해! 그런 생각이 들었다.
제멋대로 나쁜 일에 휘말려 회사까지 관두고 사기까지 당할 뻔 했는데...
이런 나를 위해 여기저기 알아봐 주고 노력해 주신 분들인데...
지금 생각하면 정말로 내가 부끄럽다.
내 평생에 딱 한 번 아버지가 내 뺨을 때렸다.
아버지와 종종 말싸움은 했지만 여태껏 한 번도 맞은 적은 없었다.
아버지는 옛날부터 아이를 절대 때리지 않겠다는 교육 방침을 입이 닳도록 말씀하셨다.
단 한 마디.
"할머니 할아버지께 사과해라."
조용하지만 엄하게 말씀하셨다.
그래서 왠지 진정이 되었다.
사실은 너무 놀라서 순간적으로 절망감조차 잊어 버렸다.
냉정을 되찾고 나서 사과를 드리고 나자
갑자기 마음이 굳건해 진 것만 같은 기분이 들었다.
달리는 차 안에서 격려해 주시는 할아버지 할머니의 목소리에 울컥해서 또 다시 울었다.
내가 생각했던 것보다 나는 훨씬 더 심약한 놈이었나 보다.
S선생님의 집(겸 절)에 도착하자 갑자기 가벼워진 기분이 들었다.
무슨 일이 생겼다기보다는 내가 혼자 안심했다고 하는 게 더 맞는 표현일 것이다.
문을 잠그고 돌길이 깔린 좁은 길을 빠져나가자 초로의 남성이 맞이해 주었다.
그러고보니 S선생님의 집에는 늘 손님이 끊이지 않았던 것 같다.
분명 외할머니처럼 드나드는 사람이 많았을 것이다.
안으로 들어가 뒷문으로 들어가자 6평 정도의 불간이 있었다.
S선생님은 내 기억 그대로 불상 앞에 깔린 방석 위에 무릎을 꿇고 앉아서
천천히 내 쪽을 향해 돌아보았다.
(⇒외조부&외조모의 나가사키 방언은 역자의 판단에 따라 표준어로 번역합니다.
다소의 오역이 있을 수 있습니다.)
외할머니: "T야, 이젠 괜찮다. S선생님이 봐 주실 게야."
S선생님: "오랜만이로구나. 다 컸네. 세월 참 빠르구나."
외할머니: "S선생님, T는 괜찮을까요?"
외할아버지: "괜찮다니까. 이제 금방 왔는데 S선생님이 어떻게 아시겠어?"
외할머니: "당신은 좀 잠자코 있어요. 나는 심장이 떨려서 가만히 있을 수가 없어요."
어째서일까....
S선생님 앞에 왔을 뿐인데 그 때까지 어쩔 줄을 몰라 하시던 외할머니와 외할아버지가 침착을 되찾으셨다.
부모님은 이미 정신적&신체적 한계에 다다르셨는지
외할아버지가 "많이 힘들었지? 뒤는 S선생님이 잘 봐 주실테니까 옆 방에 가서 쉬거라."하는 말을 따르셨다.
"그럼 T. 이 쪽으로 오렴."
S선생님이 시키는 대로 나는 S선생님과 마주 앉았다.
"그러면 I씨(외조부&외조모)도 옆 방에서 쉬고 계시지요. T와 잠시 이야기를 나누겠습니다.
뒤는 저에게 맡기시고 제가 됐다고 말할 때까지 이 방에 오셔서는 안 됩니다."
"S선생님. 부디 T를 잘 부탁드리겠습니다!"
"T야. 걱정 말거라. S선생님이 잘 봐 주실 게야. 선생님이 하시는 말 잘 듣고. 알겠지?"
다시 한 번 S선생님에게 부탁을 드리고 나에게 다정하게 말을 건네는
외할아버지 외할머니의 모습에 눈물이 나왔다.
S선생님은 더욱 다가오라고 말씀하시고는
거의 무릎과 무릎이 맞닿을 정도로 가까이 앉았다.
내 손을 잡고 잠시동안 아무 말도 없이 온화한 얼굴로 나를 바라보았다.
나는 왠지 나쁜 짓을 저지르고 혼이 나지 않을까 부모님의 안색을 살피는 아이가 된 것만 같았다.
눈 앞의 나보다도 작은 체구에 힘도 약한 할머니의 분위기에 압도되었다.
S선생님: "...어쩌면 좋을까."
나: "......"
S선생님: "T. 무섭니?"
나: "...네."
S선생님: "그렇겠지. 이대로 계속 둘 수는 없겠지."
나: "저기..."
S선생님: "앗. 괜찮아. 혼잣말이었단다."
뭐가 괜찮다는 거야?
하나도 안 괜찮잖아!!
나는 갑자기 참을 수가 없어져서 선생님께 투덜대고 말았다.
정말 나는 미숙한 인간이었다.
나: "저는 대체 어떻게 되는 겁니까?
빨리 어떻게든 해 주셨으면 좋겠는데요.
대체 뭡니까?
왜 그 녀석이 나에게 들러붙어 있는 겁니까?
이젠 정말 지긋지긋합니다.
선생님. 어떻게 안 되겠습니까?"
S선생님: "T군..."
나: "애시당초 제가 나쁜 짓을 한 것도 아니라구요!
심령 스팟 같은 곳에 가기는 했지만 나만 간 것도 아니고
왜 나한테만 이런 일이 생긴 겁니까?
거울 앞에서 △하면 안 된다는 것도 상관이 있는 겁니까?
정말 도통 영문을 모르겠다구요!!
진짜 열받아서 참을 수가 없네!"
「ドォ~ドォルルシッテ」
'도오~~ 도오르르싯테'
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」
'도~~도오르르' '치르싯테'
... 대체 무슨 일이 벌어진 건지 알 수 없었다.
「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」
'도오~~. 싯테도오~~싯테'
왼쪽 귀에 앵무새나 잉꼬처럼 높고 억양이 없는 소리가 들렸다.
그게 '도오시테'라고 반복하고 있다는 걸 이해하기까지는 조금 시간이 걸렸다.
나는 S선생님의 눈을 보고 있었고 S선생님은 내 눈을 보고 있었다.
다만 온화했던 S선생님의 얼굴이 무표정해진 것 같았다.
내 왼쪽 시야에 무언가가 있다는 건 알 수 있었다.
힐끔힐끔 보였으니까.
그러지 않았으면 좋았을 텐데.
왼쪽을 돌아보았다.
목에서 뜨뜻한 피가 흐르는 것을 느끼면서.
그 녀석이 서 있었다.
몸을 ㄱ자로 굽혀서 내 얼굴을 들여다보고 있었다.
벌어지고 있는 일을 인정할 수가 없었다.
여기는 절인데...
눈 앞에는 S 선생님이 있는데...
어째서... 어째서.... 어째서....
1주일 전에 봤던 그대로였다.
그 녀석의 얼굴이 내 눈 앞에 있었다.
올빼미처럼 조금씩 고개를 움직이며
나를 신기하다는 듯이 들여다보고 있었다.
「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」
'도오싯테?? 도오싯테?? 도오싯테?? 도오싯테??'
(왜애?? 왜애?? 왜애?? 왜애??)
앵무새같은 목소리로 같은 질문을 되풀이했다.
분명... 하야시도 이 목소리를 들었던 것이다.
나와 같은 말을 들었는지는 알 수 없지만.
나는 숨 쉬는 것도 잊어버린 채 눈과 입을 크게 벌리고 움직일 수 없었다.
아니. 정확히 말하자면 숨을 제대로 쉴 수가 없었다.
그러고 있는 사이에 녀석이 손을 움직여
얼굴에 붙어 있던 부적같은 것을 천천히 들추기 시작했다.
봐서는 안 돼!!!
절대로 그래서는 안 된다는 것도 알고 있었고
도망을 치고 싶었지만 몸이 움직이지를 않았다.
그 녀석의 턱이 보일 것만 같았다.
마음 속에서는 '그만 해!! 그 이상 들추지 마!!'하고 외치고 있었지만
입에서는 "으헉...컥..." 이런 한심한 소리밖에 나오지 않았다.
더 이상은 안 돼!! 그만!!!
"짝!!"
나는 튀어 올랐다.
심장이 터지는 줄 알았다.
'짝!' 소리와 함께 나는 튀어 올랐다.
오랫동안 무릎을 꿇고 앉아 있어서 쓰러질 뻔 했지만
뒤를 향해 바로 달려 나갔다.
내 몸이 멋대로 그렇게 움직였다.
다리가 저려서 제대로 달리지는 못했다.
앞도 제대로 보지 않고 뛰어서 벽에 머리를 부딪쳤지만 조금도 아프지 않았다.
이마에서 피가 줄줄 흐르고 있었는데도...
그만큼 나는 경황이 없었다.
눈에 피가 들어가서 앞이 제대로 보이지 않았다.
손으로 더듬어 출구를 찾았다.
그렇지만 나는 계속 전혀 다른 방향만 헤매고 있었던 것 같다.
"아직은 가지 못한다!"
갑자기 S선생님이 크게 외쳤다.
다른 방에 있던 부모님과 외할아버지 외할머니에게 말한 건지
나를 향해 말한 건 지는 알 수 없었다.
그건 잘 모르겠지만 그 목소리는 내 움직임을 멈추게 하기에는 충분했다.
그 자리에서 굳었다.
불간으로 들어오려 하는 부모님과 외조부모님의 움직임이 멈춘 것을 확인이라도 하듯
잠깐의 시간을 두고 S선생님이 다시 말을 이었다.
"T. 미안해. 무서웠지? 이젠 괜찮으니까 이 쪽으로 돌아오렴.
괜찮으니 I씨도 조금만 더 기다려 주세요."
피를 닦으며 S 선생님 앞으로 돌아가자 선생님이 손수건을 건넸다.
향 냄새인지는 모르겠지만 좋은 냄새가 났다.
그 때서야 아까의 그 소리는 S 선생님의 손뼉 소리였다는 것을 깨달았다.
"T. 보였지? 들렸니?"
"보이긴 했지만.. 계속 '왜애?'라는 말만 되풀이했습니다."
S선생님의 얼굴은 평소처럼 온화해져 있었다.
"그렇구나. 왜애? 하고 물었구나. 무슨 말이라고 생각하니?"
전혀 모르겠다.
"네?? 음... 모르겠습니다."
"T는 아까 그게 무서웠니?"
"무섭...습니다."
"뭐가 무서웠니?"
"그야... 평범하지 않고... 귀신이고..."
내 뇌는 이미 사고 능력의 한계를 넘어섰다.
S선생님이 대체 무슨 말을 하고 싶어하는 건 지 전혀 알 수 없었다.
"그치만 아무 짓도 안 했잖니?"
"아뇨. 목에서 피도 났고. 게다가 이상한 부적 같은 걸 들추려고도 했고...."
"그랬지. 하지만 직접적으로는 아무 짓도 하지 않았지?"
"......"
"어렵지..."
"저기.. 잘 몰라서.... 죄송합니다."
"괜찮단다."
S선생님은 내가 이해할 수 있도록 이야기해 주었다.
비유를 들었다고 하는 편이 맞는 지도 모른다.
우선 그 녀석은 유령이나 귀신이라 불리는 존재임에는 틀림없다.
그렇다면 소위 말하는 악령이냐 단정할 수 있는 존재인가 하면
S선생님은 확언할 수 없다고 했다.
명백이 질이 나쁜 부류에 들기는 하지만 S선생님은 악의가 느껴지지 않는다고 했다.
내게 일어난 일은 어떻게 된 거냐 묻자 이렇게 대답했다.
"악의는 없지만 너무 강하면 이렇게 되는 거란다.
저 사람은 계속 너무도 외로웠던 거지.
이야기를 나누고 싶어. 만지고 싶어. 봐 줬으면 좋겠어.
내 존재를 느껴 줘. 알아 줘.
계속 그렇게 바라 왔던 거지."
"T군은 말이야. 잘 모를 지도 모르겠지만
따스한 곳에 있단다.
많은 사람들이 따뜻하게 생각해 주는 T를 보고
저 사람은 '좋겠다... 기쁘겠다...'하고 부러워했을 거야.
그래서 자기를 알아차려 준 게 너무너무 기뻐서 어쩔 줄을 몰랐던 게 아닐까."
그렇지만 T는 저 사람에 비하면 몹시 약해.
그러니까 가까이 있는 것만으로도 겁을 먹고 몸이 반응을 하는 거지."
S선생님은 마치 어린 아이에게 이야기를 하듯이
어려운 말을 피하며 천천히 이야기해 주었다.
나는 어떻게 하면 좋을 지 몰랐다.
그 녀석은 틀림없는 악령이라고 생각하고 있었으니까.
S선생님이 쫓아주시면 그걸로 끝나는 거라고 생각하고 있었으니까.
그런데 S선생님은 그 녀석을 감싸듯 이야기하고 있었다.
"그렇지만 어떻게든 조치를 취하지 않으면 안 되겠지.
T. 시간은 걸리겠지만 어떻게든 해 줄게."
그 한마디가 나를 구원해 주었다.
아... 이젠 됐다...
끝이 난다는 생각이 들었다. 겨우 안심할 수 있었다.
S선생님은 나에게 이런 말을 해 주었다.
평생 잊고 싶지 않은 말이었다.
"생김새가 무섭거나
내가 모르는 것이라고 해도
나처럼 괴로워하고 있다고 생각하렴.
구원의 손길을 기다리고 있다고 생각하렴."
S선생님은 독경을 하기 시작했다.
퇴마를 하기 위한 게 아니라
그 녀석이 성불할 수 있도록.
이마는 찢어지고 목의 상처는 더 커져서 아팠지만
그 날 밤은 정말로 푹 잘 수 있었다.
이튿 날.
아침 일찍 일어났는데도 S선생님은 이미 아침 불공까지 마친 상태였다.
"잘 잤니? 그럼 세수하고 아침 먹으렴.
식사가 끝나면 본산(本山)에 갈 테니까."
S선생님이 속해 있는 종파는 교과서에도 실려 있을 정도로 역사가 있고
신도와 수행자도 전국에 퍼져 있다.
가르침은 같지만 지리적 문제로 동(東)과 서(西) 각각 본산이 있다.
내가 간 곳은 서의 본산.
당분간 본산에서 지내며 내가 갖고 있는 덕을 쌓는 일과
그 녀석이 조금이라도 빨리 성불할 수 있도록 공양하라는 말을 들었다.
그 이야기를 듣고 가장 기뻐한 건 외할머니였다.
아버지는 아직도 완전히 믿지는 못한 것 같았다.
결국 내가 "괜찮아. 다녀 올게." 하고 말하자 반대하지 않으셨다.
본산에 도착하자 젊은 사람이 마중을 나와서 S선생님에게 정중히 인사를 했다.
본당 깊은 곳에 있는 작은 건물에서 본산의 여러 사람들과 인사를 나누었다.
사실 S선생님은 굉장한 사람이라
본인만 원한다면 훨씬 더 높은 지위에 들어도 이상하지 않은 사람이라고 한다.
나는 당분간 본산에서 지내며
손님 대접을 받기는 했지만 다른 사람들과 같은 생활을 했다.
그 곳에서 내가 정말 행운아라는 것을 실감했다.
벌써 40년 동안 계속 뱀의 원념 때문에 괴로워하는 여자.
친척이 모두 저주를 받아 몰락해서 홀로 남겨졌지만
족보를 거슬러 올라가면 꽤 훌륭한 선비 가문의 후예인 사람 등등.
나보다도 훨씬 더 괴로워하는 사람이 이렇게도 많이 있다는 걸 몰랐다.
엄격한 생활을 때문인지 장소 때문인지 S선생님의 이야기 때문인지는 모르겠지만
공포감은 꽤 많이 사라졌다.
(그렇지만 문득 그 녀석이 곁에 있는 듯한 기분이 들어 겁에 질리기도 했다.)
본산에서 지내고 1개월 정도가 지났을 무렵 S선생님이 찾아 왔다.
"어머나. 꽤 많이 좋아진 것 같구나."
"네. 선생님 덕분입니다."
"그 이후로 본 적 있니?"
"아니오. 한 번도... 아마 성불해서 어딘가로 가 버린 게 아닐까요?
여기는 본산이기도 하고."
"그렇지 않단다."
얼굴에 경련이 일었다.
"어머. 미안하구나. 또 겁을 준 모양이구나.
그렇지만 T. 이 곳에는 괴로워하는 사람들이 정말 많이 있어.
그 사람들을 조금이라도 더 많이 도와 주는 게 우리들이 할 일이야."
S선생님의 그 말 속에는 그 녀석도 포함되어 있었을 것이다.
"T. 조금 더 여기에서 지내면서 공부하렴. 모처럼이니까."
나는 S선생님의 말에 따랐다.
그 때 일이 아직 잊혀지지 않아서 조금 더 이 곳에 있고 싶다고 생각했다.
그리고 하루 동안은 짧게 느껴지지만
뭐랄까. 시간이 천천히 흘러가는 느낌이좋았다.
그렇게 결국 3개월이나 눌러 앉게 되었다.
그 동안 S선생님은 얼굴을 비추지 않았다.
역시 3개월이나 속세와 멀어져 있으니
뭔가 공허한 마음이 점점 강해 지고 있었다.
2개월만에 S 선생님이 찾아와서 겨우 본산에서의 생활에 마침표를 찍으려 하고 있었다.
준비를 마치고 지금껏 신세를 진 분들에게 한 명 한 명씩 감사 인사를 드리고
S선생님과 함께 돌아가려 했다.
그런데 정신을 차려 보니 옆에 있던 S선생님이 없었다.
어라? 하고 뒤를 돌아보니 약간 뒤에 서 있었다.
'걸음이 좀 빨랐나?' 생각하며 선생님이 있는 곳으로 돌아갔더니
선생님은 온화한 얼굴로 "T. 돌아가지 말고 여기에 계속 있는 건 어떠니?' 하고 물었다.
사실은 S선생님에게 인정받은 기분이 들어 조금 기뻤다.
"아니오. 저는 여기 계신 분들처럼은 못 하는걸요.
정말로 다들 훌륭한 분이신 것 같아요.
흉내도 못 내겠는걸요."
쑥스러워하며 그렇게 대답하자
"그게 아니라 아직 돌아가면 안 될 것 같아."
"네?"
"아직 남아 있어서."
또 다시 얼굴에 경련이 일었다.
결국 본산을 내려올 수 있었던 건 다시 두 달이 지난 후였다.
5개월 동안이나 눌러 앉아 있었다.
"아마 이젠 괜찮을 것 같지만 당분간은 한 달에 한 번 찾아오렴."
그 녀석이 사라진 건지, 아니면 숨어있는 건지 정확하게 알 수 없기 때문이라고 했다.
길었던 본산 생활이 끝나고 겨우 일상으로 돌아왔다.
혼자 지내던 아파트는 어머니가 퇴거 수속을 밟아 주어서
사이타마의 집에 가 보니 내 짐이 다 옮겨져 있었다.
어머니가 말해 주기를
아파트 방 문을 열었을 때 무언가를 태운 냄새가 나고
방 한 가운데 바닥에는 조그만 벌레들이 모여 있었다고 한다.
너무 무서워서 그 날은 아무 것도 하지 못하고 그대로 돌아왔다고 한다.
이튿날 어쩔수 없이 마음을 굳게 먹고 문을 열었더니
냄새는 남아 있었지만 벌레는 사라진 상태였다.
어머니에게는 죄송하지만 내가 그 모습을 보지 않아서 다행이다.
사이타마의 집에 돌아가 약 반 년만에 휴대전화를 보자 엄청난 건수의 착신 이력과
문자메시지가 들어와 있었다.
그 중에서도 가장 많았던 게 OO였다.
녀석은 녀석 나름대로 자기 때문에 이렇게 되었다고 자책을 했는지 사죄와 함께
이렇게 하면 좋다던가 이런 사람이 있다던가
꾸준히 연락을 취해 왔던 모양이다.
OO가 집에 오기도 했었다고 한다.
OO에게 전화를 걸었다.
수화기 너머가 떠들썩했다.
OO는 혀가 풀렸는지 무슨 말을 하는 지 제대로 알아 들을 수가 없었다.
... 미팅을 하며 놀고 자빠져 있었다.
우선 전화를 끊고 '죽여버린다'는 문자메시지를 보냈다.
어차피 남인 거다.
이튿 날 OO에게서 '사과하고 싶으니 시간을 내 달라'는 메시지가 왔다.
밤이 되자 OO가 집까지 왔다.
일부러 먼 곳까지 와 준 걸 보니
꽤나 후회와 반성을 한 모양이다.
현관을 열고 OO를 보자마자 두 방 날려 줬다.
첫 번째는 녀석의 자책을 덜어주기 위해.
두 번째는 미팅같은 데 나가서 나를 열받게 한 것에 대해.
말로 용서받는 것보다 맞아서 용서받는 게 더 후련한 경우도 있다.
두 번째는 내 개인적인 분노 때문이지만.
OO에게 그 동안의 경위를 상세히 이야기하고
그 날 밤은 둘이서 흥분하기도 하고 무서움에 떨기도 했다.
지금 생각하면 너무도 당연한 일상이었다.
OO에게 그 날 밤 이후의 일에 대해 들었다.
그 날 밤 하야시는 몹시 이상한 상태였다고 한다.
하야시의 차에서 친구와 함께 대기하던 OO는
위험한 일이 벌어졌다는 걸 바로 알 수 있었다.
그렇지만 뒷 좌석에 올라 탄 하야시의 태도는 장난이 아니어서
차를 출발시키지 않을 수 없다고 했다.
"반항하거나 늑장을 부리면 무슨 일을 당할 지 모를 정도였어."
OO는 차가 우리 집에서 멀어져 고속도로에 진입하려는 신호에 걸렸을 때 도망쳤다.
"하야시가 가는 차 안에서 갑자기 웃기도 하고 덜덜 떨기도 하고
'나는 아니야' '그런 거 안 해' 그런 말들을 해서 무서웠다구."
그 녀석이 무언가를 속삭이는 모습이 떠올라서 힘들었다.
우리 집으로 돌아오지 않았던 건 단순히 무서웠기 때문이었다.
"근성없이 굴어서 미안해."
내가 OO이었어도 피하고 싶었을 거다.
그 후 하야시가 어떻게 되었는 지는 아무도 모른다.
OO도 그 일로 꽤 화가 나서 하야시를 소개해 준 친구를 추궁했다고 한다.
사실 하야시는 나를 상대로 사기를 치려고 했고
그 친구도 용돈 벌이 겸 가벼운 마음으로 소개했던 거라고 한다.
"그래도 내가 흠씬 두들겨 패 놨으니까 용서해 줘."
그리고 자신이 동원할 수 있는 인맥은 총동원해 보았지만
주변에 이런 일에 대해 아는 사람이 없었다고 한다.
그 후 나는 S선생님의 말씀을 따라 매달 한 번씩 S선생님을 방문했다.
첫 해는 매달. 그 다음 해는 3개월에 한 번.
사죄하고 싶은 마음 때문인지 OO도 별 이유없이 우리집에 오는 일이 많아졌다.
S선생님을 만나러 가기 전과 만나고 난 후에는 꼭 연락을 해 오고는 했다.
그 녀석을 보고 2년이 지났을 무렵
"이젠 걱정하지 않아도 될 것 같구나.
T. 이제부터는 가끔씩 오면 될 것 같아.
그치만 또 이상한 짓 하면 안 된다."
정말로 끝난 건지
나는 알 수 없다.
S선생님은 그 말을 하고 3개월 후에 타계하셨다.
더 많은 일을 가르쳐 주셨으면 좋았을 텐데.
그렇지만 지금은 끝났다고 믿고 싶다.
S선생님의 장례식으로부터 두 달이 지났다.
소중한 사람을 잃은 상실감도 옅어져 나는 일상에 돌아와 있었다.
바쁜 나날을 보내던 중에 문득 그 시절을 떠올릴 때가 있다.
일상과 너무도 달라서
그 일이 정말로 있었던 일인지 헷갈리기도 한다.
이런 이야기를 다른 사람에게 할 수도 없고 할 필요도 없고
그저 하루 하루를 열심히 살아갈 뿐이다.
그렇게 극히 평범한 일상을 보내던 중에 외할머니에게서 한 통의 편지가 날아 들었다.
봉투를 열자 외할머니의 편지와 또 한 통의 편지가 들어 있었다.
"S선생님에게 건네 받은 편지란다.
49일도 지났으니 약속대로 이 편지를 주마."
T에게.
오랜만이구나. S 선생님이란다.
시간이 꽤 흘렀구나.
이젠 괜찮니? 더 이상 무서운 일이 생기지 않으면 좋겠는데.
나이를 먹으면 쓸데없는 말이 많아져서 큰일이구나.
사실은 T에게 사과하고 싶은 게 있어서 이 편지를 썼단다.
그렇지만 나쁜 짓을 한 건 아니란다.
그 때는 어쩔 수가 없었단다.
그래도... 미안하구나.
그 날 T가 우리 집에 왔을 때
사실 선생님도 몹시 무서웠단다.
T가 데리고 온 건 선생님이 감당할 수 없을 정도였으니까.
그치만 T가 겁에 질려 있어서
선생님마저 겁을 내면 안 된다고 생각했어.
그 때는 운이 좋았어.
본산에서의 생활은 어땠니?
조금이라도 마음이 편해졌었니?
T와 만날 때마다 선생님이 아직 안 된다고 말했던 것 기억하니?
그대로 돌려보내면 끔찍한 일이 벌어질 거라고 생각했단다.
그래서 T처럼 젊은 사람에게는 따분했겠지만 돌려보내지 않았던 거였어.
선생님이 매일 기도를 했지만
좀처럼 떠나 주지를 않았단다.
그래도 이제는 괜찮을 거야.
가까이에는 보이지 않게 되었으니까.
그렇지만 T.
혹시... 혹시라도 다시 괴로운 일이 생기면 본산으로 가렴.
그 곳이라면 아마 T가 강해질 테니까
웬만해서는 손을 대지 못 할 거야.
마지막으로 T에게 말해 두지 않으면 안 될 일이 있어.
감당하지 못할 만큼 힘들어지면 부처님께 몸을 맡기렴.
절대로 T가 죽었으면 좋겠다고 생각하는 게 아니란다.
그렇지만 혹시라도 아직 끝나지 않은 거라면
T에게는 괴로운 시간들이 끝없이 찾아올 거야.
T도 본산에서 그런 사람들을 많이 만났지?
정말로 나쁜 것들은 천천히 시간을 들여서 괴롭힌단다.
결코 끝내지 않아.
괴로워하는 모습을 보며 비웃고 조롱하고 싶은 거야.
분하지만 선생님의 힘이 미치지 못해서
눈 앞에서 괴로워하고 있어도 아무 것도 해 주지 못할 때가 있어.
그 사람들도 도와 주고 싶지만...
아무 일도 해 주지 못할 때가 많단다.
선생님도 어떻게든 T를 도와 주고 싶어서 손을 써 봤지만
솔직히 자신이 없단다.
기척도 느껴지지 않고 이젠 없어졌다고 생각하지만
아직 안심해선 안 돼.
안심하고 마음을 푸는 걸 기다리고 있을 지도 모르니까.
알겠니?
절대로 완전히 마음을 놓아서는 안 돼.
늘 조심하고 위험한 곳에는 가까이 가지 말고
쓸데없는 일도 하지 말아야 해.
선생님을 믿으렴. 알겠지?
거짓말만 해서 미안하구나.
믿어 달라고 하는 게 더 뻔뻔하다는 건 알지만
선생님이 마지막까지 부처님께 기도드리고 있었다는 건 믿어 주렴.
T가 매일 매일을 건강하게 지낼 수 있도록
항상 기도하고 있단다.
S
편지를 읽으며 내 손이 떨리는 게 느껴졌다.
식은 땀도 흐르고 심장 박동도 빨라졌다.
대체 어떻게 하면 되는 걸까.
아직...... 끝난 게 아닌 건가?
갑자기 그 녀석이 어딘가에서 나를 보고 있는 것만 같은 기분이 들었다.
이젠 도망칠 수 없는 게 아닐까?
어쩌면 그 녀석은 어딘가에 숨어 있을 뿐이고
마음만 먹으면 언제나 내 눈앞에 나타날 수 있는 게 아닐까?
한 번 의심하기 시작하니 끝이 없었다.
모든 게 의심스러웠다.
S선생님은 어쩌면 그 녀석에게 괴롭힘을 당하고 있었던 게 아닐까?
그래서 이런 편지를 남겨 준 게 아닐까?
결국 아무 것도 변하지 않은 게 아닐까?
어쩌면 그 녀석이 하야시에게도 들러붙은 게 아닐까?
대체 그 녀석은 하야시에게 무엇을 속삭인 걸까.
나와는 다른 좀 더 직접적인 말을 들어서 하야시가 이상해 진 건 아닐까?
S선생님은 내가 걱정하지 않도록 거짓말을 해 주었지만
'거짓말을 하지 않으면 안 될 정도'의 일이었단 말인가...
결국 S선생님은 그렇다는 것을 알고 있었기 때문에 마지막까지 걱정해 주셨던 게 아닐까?
의심하면 의심할 수록 혼란스러웠다.
어떻게 해야 좋을 지 하나도 모르겠다.
내가 알고 있는 일은 여기까지이다.
2년 반에 걸쳐 일어났고 완전히 끝났는 지는 지금도 알 수 없는 이야기의 전부이다.
결국 이유도 확실히 알 수 없고
후련하게 해결되거나 조력자가 나타나는 일도 없었다.
어디에서 얻었는지 분명치 않은 지식이 불러온 일인지
아니면 그게 어떤 인과 관계에 있었던 건지
나는 전혀 모르겠고 어쩌다 보니 우연히 일어난 일이라고밖에 말할 수가 없다.
그렇지만 우연치고는 너무도 가혹하다.
과연 나는 이렇게 괴로워해야 할 만한 짓을 저지른 걸까?
난 그런 짓을 저지른 기억이 없다.
그렇다면... 어째서인 거지?
이건 너무 불공평하다.
그게 솔직한 내 심정이다.
내가 할 수 있는 말은 이것 뿐이다.
"우선 무언가가 씌이거나 들러붙게 되면,
정말로 장난이 아니라는 것을 말해 두고 싶다.
마지막까지 누군가가 끝났다고 말해준다고 해도
마음을 놓아서는 안 된다."
그리고...
정말로 마지막으로 미안하지만 사과하지 않으면 안 될 일이 있다.
이 이야기 속에는 작은 거짓말이 몇 군데 있다.
그건 이 이야기를 조금이라도 더 알기 쉽게 하기 위해서나
나도 잘 모르기 때문이니 이해해 줬으면 좋겠다.
그런데 사과하고 싶은 건 그게 아니다.
훨씬 더
이 이야기의 성립에 관한 근본적인 부분에서 나는 거짓말을 했다.
아마 눈치채지 못했을 것이고
눈치채지 못하도록 신경을 썼다.
그러지 않으면 이야기가 제대로 전해지지 않을 것 같아서.
모순을 느끼는 사람도 있을 것이고
실망하는 사람도 있을 것이다.
그렇지만 이 이야기를 누군가가 알아 주기를 바랬다.
나는 OO다.
이제 와 후회해도 되돌릴 수가 없다..
식스 센스에 버금가는 반전...
当たり前かも知れないが首は随分良くなり、まだ痕が残るとは言え明らかに体力は回復していた。 熱も下がり身体はもう問題が無かった。
ただ、それは身体的な話でしかなくて、朝だろうが夜だろうが関係無く怯えていた。 何時どこでアイツが姿を現すかと思うと怖くて仕方無かった。
眠れない夜が続き、食事もほとんど受け付けられず、常に辺りの気配を気にしていた。
たった10日足らずで、俺の顔は随分変わったと思う。精神的に追い詰められていた俺には時間が無かった。
当然、まともな社会生活なんて送れる訳も無く、親から連絡を入れてもらい会社を辞めた。(これも後から聞いた話でしかないのだが…、連絡を入れた時は随分嫌味を言われたらしい)
とにかく、何もかもが怖くて洗濯物や家の窓から見える柿の木が揺れただけでも、もしかしたらアイツじゃないかと一人怯えていた。
S先生が来るまでには、まだ二週間あまりが残っていた俺には長すぎた。
見かねた両親は、強引に怯える俺を車に押し込み何処かへ向かった。 父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」と声をかけた。
車の後部座席で、母は俺の肩を抱き頭を撫でていた。母に頭を撫でられるなんて何年ぶりだったろう。
(当時の俺にはだが)時間の感覚も無く、車で移動しながら夜を迎えた。
二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、母に寄り添われ安心したのか、久方ぶりに深い眠りに落ちた。
多分、あんなに長く眠るなんてもうないだろうな。外を見ると車は見慣れない景色の中を進んでいた。
少しずつ、見覚えのある景色が目に入り始めた。道路の中央に電車が走っている。車は…長崎に着いていた。これには俺も流石に驚いた。
怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け車での移動にしてくれたらしい。
途中で休憩は何度も入れたらしいが、それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、俺が怖がらないようにずっと寄り添ってくれた母への恩は、一生かけても返しきれそうもない。
祖父母の住む所は長崎の柳川という。柳川に着くと坂道の下に車を停め両親が祖父母を呼びに行った。
(祖父母の家は坂道から脇に入った石段を登った先にある)
その間、俺は車の中に一人きりの状態になった。
両親が二人で出ていったのは足腰の悪い祖母やS先生の家に持っていく荷物を運ぶのを手伝うためだったのだが、自分で「大丈夫、行って来て」なんて言ったのは本当に舐めてた証拠だと思う。
久しぶりに眠れた事や、今いる場所が東京・埼玉と随分離れた長崎だった事が気を弛めたのかもしれない。
車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると急に首に痛みが走った。
今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。
分かってもらえれば嬉しいけど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのってもうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。
気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。
この時は少し気が弛んでいたから尚更で、「どーしろっつーんだよ!!」とか「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。
車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。
何しろ問題の俺が首から血を流しながら後部座席で項垂れて泣いてるからね。
何も無い訳がないよな。
「どうした?」とか「何とか言え!」とか「もぅやだー」とか「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか「どげんしたと!?」とか「あなたどうしよう」とか。
この時は…思わず「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。
こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に…黙ってろよ!とか思ってたな。
勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ…こんな俺みたいな駄目な奴のために走り回ってくれてる人達なのに…。今考えると本当に恥ずかしい。
で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。
物凄い痛かったね。親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。
(父のポリシーで子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね)
で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って静かだけど厳しい口調で言ったんだ。
それで、何故か落ち着いた。ってかびっくりし過ぎてそれまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。
走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。
自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。
S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。 何か起きたっていうよりは俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。
門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。 きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。
奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。
S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて…ゆっくりと振り向いたんだ。
(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)
祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」
何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。 それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」
S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」
しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。 泣きっぱなしだな俺。
S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。 俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。
目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
あんな人本当にいるんだな。
S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」
何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。
何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。
S先生、何とかならないんですか?」
S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」
「ドォ~ドォルルシッテ」
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」
…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)
「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」
左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。 ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。
左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。 梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。
「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」
鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。
俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。
俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。
見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで
「パンッ!!」
って。 例えとか誇張でもなく“跳び上がった。 心臓が破裂するかと思った。
その音で俺は跳び上がった。正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。
血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。
「まだいけません!」
いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか俺に言ったのか分からなかった。分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話始めた。
S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい」
「Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」
障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。
(質問出来る余裕は無かったけど)
俺「見えました…どーして?って繰り返してました。」
この時にはもうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。
S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。
俺「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」
S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」
俺「怖い…です」
S先生「何が怖いの?」
俺「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」
ここらへんで俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何が言いたいのかさっぱりだった。
S先生「でも何もされてないわよねぇ?」
俺「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」
S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
俺「…」
S先生「難しいわねぇ」
俺「あの、よく分からなくて…すいません」
S先生「いいのよ」
S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね」
「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっと“いいな~。優しそうだな~って思ったのね。だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら」
「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって体が反応しちゃうのね」
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。
S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」
この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。
S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。
「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」
S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた)
S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」
関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
俺が連れていってもらったのが西の本山。本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。
本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。 ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって
身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、
あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。
(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)
本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。
S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」
俺「えぇ、S先生のおかげですね」
S先生「あれから見えたりした?」
俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
S先生「そんな事ないわよ?」
顔がひきつった。
S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」
「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」
多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」
俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。
「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら優しい顔で
「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。
「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」
照れながら答えたら
S先生「そうじゃなくて帰っちゃ駄目みたいなのよ」
俺「え?」
S先生「だってまだ残ってるから」
また顔がひきつった。
結局、本山を降りる事が出来たのはそれから二ヶ月後だった。実に五ヶ月も居座ってしまった。多分、こんなに長く家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。
S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか本当のところは分からないからだそうだ。
長かった本山の生活も終ってやっと日常に戻って来た。 借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、
実家には俺の荷物が運び込まれてた。
アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしくその日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが俺が見なくて良かった
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とかこうすればいいとかこんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。
母から、○○が家まで来た事も聞いた。 戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
…コンパしてやがった。
とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。 所詮世の中他人は他人だ。
翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。電話じゃなかったのは気まずかったからだろう。
夜になると、家まで○○が来た。わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが一番の理由である事は言うまでもない)
玄関を開け○○を見るなり二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
言葉で許されるよりも殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。
○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。
あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
「反抗したりもたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」
○○の言葉が状況を物語っていた。
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、“俺は違う“とか“そんな事しません“とか言い出して怖いんだもんよ」
アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて頭の中の映像を消すのに苦労した。
俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。
俺が○○でも勘弁だしね。
その後、林がどうなったかは誰も知らない。さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。
○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
でもこんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
だから「何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。 ○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、
S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。
アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。
本当に終ったのか…俺には分からない。S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。ただ、今は終ったと思いたい。
S先生のお葬式から二ヶ月が経った。
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め俺は日常に戻っていた。
慌ただしい毎日の隙間にふとあの頃を思い出す時がある。あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、
本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。
祖母から一通の手紙が来たのはそんなごくごく当たり前の日常の中だった。
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
祖母の手紙には俺への言葉と共にこう書いてあった。
“S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします“
S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。 でも…、ごめんなさいね。
あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。
本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。
Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら?
Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる?
このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。
先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。
でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。
最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。
Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?
本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。
苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。
いい?Tちゃん。
決して安心しきっては駄目よ。いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、
余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね?
嘘ばかりついてごめんなさい。
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。
S
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。一体、どうすればいい?
まだ…、終っていないのか?
急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。もう、逃れられないんじゃないか?
もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
一度疑い始めたら、もうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。
S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
結局…、何も変わっていないんじゃないか?
林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
一体アイツに何を囁かれたんだ。俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?
S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。
結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。
二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。
結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。
でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。
俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」
この話の中には小さな嘘が幾つもある。これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。
ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
そうしなければ伝わらないと思ったから。
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
でもこの話を誰かに知って欲しかった。
俺は○○だよ。
‥今更悔やんでも悔やみきれない。
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Muriel
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